『疑惑α―帝銀事件 不思議な歯医者』
著者:佐伯 省
出版:講談社発行サービスセンター
1996.12
395p程
カテゴリ:事件取材本
おすすめ度:10点中6点(おすすめはしませんが、内容は興味深い)
1948年(昭和23年)に起きた帝銀事件。
何の関係もないところから一般人が真犯人?と思われる歯医者と接触したことから
はじまるストーリー
事実は小説より奇なりというが、正にこんな偶然があるのかなと。
別段、構成が良いわけでも、読みやすいわけでもないですが、書いてある内容は非常に興味深く印象に残った本です。
以下ネタバレを多く含みます。
著者の佐伯氏によると近くの歯医者で治療したところ
(後日調べたネット情報によると世田谷区成城学園前からそう遠くないあたり?)
急に容態が悪くなりおかしいと感じた。
思うと2年程前に(昭和30年だっけ?)その歯科医と偶然家で話した際、帝銀事件の真犯人ではないかという疑念が生じていたという。実際久しぶりに診療した際、治療後調子が悪くなり別機関で髪の毛から通常の10倍のヒ素が検出。
調べてみると歯科医の特異な経歴。
学生時代に多くの人から変わっていると見られたこと、腕は良いこと。
逮捕された平沢と頻繁に連絡をとっていたこと、ある事件後に東京に出てきたこと。
経歴、その時々での友人関係、疑問点、多くの調査が積み重ねられている。
正に執念。
確信から調査をしている節があるが、よくここまで調べたものである。
歯科医を真犯人だと断定したことで変な人に思われ、義理の父に無理矢理精神病院にいれられたことなど(昭和34~5年だっけ?)の屈辱が執念を倍増させたのだろうか。
結論からいうと帝銀の実行犯はその歯科医で、当初は重要容疑者として逮捕されたが上海だかで毒殺を研究実践していた特務機関員?の類で、GHQとも何らかの繋がりがあり圧力で開放されたのではないかといった話。
他にも中野学校等、私には?な戦争事情の話もありました。
読後の疑問点は
・歯科医の犯行目的は何?お金?新薬の実験ではないかとも推測されているが。
・ 当初の昭和30年の時に感付かれたと思われながらも歯科医が様子を見たのは丸くなったからなのか?口封じで知り合い柿崎を殺人したとも著者は推測しているが。
特に、昭和33年の著者との歯医者での接触で、著者の推理的には著者を徐々に抹殺しようとしたヒ素治療以降に訪れていないのだから、知能犯の歯科医としては著者は気になる存在だったと思われますが。
思ったのは、人間生きていれば、動けば動くほど跡が残るのだなと。
著者や探偵や記者の凄まじい聞き込みでかなりの部分のパズルが組み合わさっている調査結果を見て、単純に一般人がここまで調べ尽くす根性は凄いと感じた。
(著者の方はかなりのお金持ちのようです。*ネット情報ですが)
精神病院の適当さも書かれていたが、昭和35は1960年?その頃は何でもありの治外法権だったのかなと。犯人は事件当時1948年に44歳程だったというと1904年生まれ。日中戦争、第二次世界大戦も直撃世代。戦争は人を狂わすのだろうか。
偶然の奇跡
作者の精神病院から舞い戻ってきた執念
著者と妻の信頼の絆が強固であったところが良かったです。